雑記49 – 「菜の花の沖」
どうにも負の部分を描写しようとすると、感情的になってしまっていけません。
この本に思いを馳せて、気晴らしをしようかと思います。
司馬遼太郎さんの小説はほぼ読みましたが、これは最も好きなモノです。
表紙はこんな感じだったのですね、、男臭いです。
淡路島出身の農民、嘉兵衛が船乗りを、そして商人になることを目指して奮闘する物語です。
とても地味な始まりです。
北前船、物流という観点から当時の生活、風習を描き出します。
北海道で採れた鰊が近畿で魚肥として使用され、それで成長した菜の花から菜種油が作られ全国へと拡散してゆく。
そういった流れが至る所に組み込まれ、すでに複雑な経済網をなしていたことが分かります。
読んでいると「大航海時代」というシミューレションゲームがありましたが、あれをやりたくなってきます。とても良いゲームでした。
そして、自分の店を持つまでに大きくなった高田屋嘉兵衛は、商売において最も重要なことは信頼を得ることである。
という経営思想の元、始めのうちは損を出してでも相手に信頼されることを一番とし、商品の質に拘り商売を拡大してゆきます。
当時の北海道である蝦夷地ではアイヌ民族が奴隷のように搾取されていました。
嘉兵衛は君主国ではない日本という国において、幕府の目が届かないところで様々な不正が行われていること目にします。
それらの人たちのため、尚且つより大きな利益を得て、より多くの人たちを助けるために彼は尽力します。
もちろん嘉兵衛も実在の人物ですが、歴史上の人物である、冒険家の間宮林蔵や伊能忠敬なども登場し、雪だるま式にスケールが広がってゆきます。
そして当時、後に明治維新という形で爆発するエネルギー、ロシアの圧力、が増してゆきます。
嘉兵衛は、千島列島を測量していて、日本によって拿捕されたロシア人との人質交換の為にロシアによって捕まりました。
彼は頼まれてもいないのに、ロシアと日本を繋ぐため、無駄な争いを起こさないために奔走します。
言葉の通じないアイヌ人は疎か、彼の人徳はロシア人まで魅了したようです。
現代では軽視されてしまう、誠実さ、というものがどれほど偉大であるかを教えてくれる本だと思います。
片意地張る必要はないが、ひねくれていても誠実でありたい。そんなことを考えてしまいます。
若い嘉兵衛は、淡路と堺を往復する瓦船に乗り込み、当時近畿一体に植えられていたであろう、黄色い菜の花畑をどのような心持ちで見たのだろう。
そんな事を思ってタイトルを付けられたそうです。何とも司馬遼太郎さんらしい、上に登る感じが伝わってきます。
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